名古屋高等裁判所 昭和39年(く)41号 決定 1965年1月12日
少年 K・Y(昭二二・二・一五生)
主文
原決定を取り消す。
本件を津家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告申立の趣意は、少年の親権者両名共同名義の抗告申立書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用するが、その要旨は、原審の量定は不当であるというにある。本件少年保護事件記録および少年調査記録を調査し、当裁判所における事実取調の結果を参酌して案ずるに、少年は昭和三七年四月○○高校に入学するに及んで始めて親許を離れて下宿生活に入つたが、学外での交友関係が悪くなり、二年生の三学期頃から学業を怠つて、あるいは軽自動二輪車にて飛び廻り、あるいはバー遊びを覚え、ようやく生徒らしからぬ行状となつたので、高校二年終了にて退学を已むなくさせられ、親許に帰るにも周囲に恥じて、伊勢市、名古屋市に板前見習、土工として二ヵ月程宛にて職を転じ、昭和三九年八月また伊勢市に戻つてバーテン見習となつたが、生意気盛りの年齢にバー勤めのため、心の荒みが生じ、その結果が本件傷害の非行となつて現われたものであり、かかる不良性を帯びてきた少年を現状のまま放置することは望ましくないことはいうまでもないが、さらに検討するに、本件非行は、少年が自己の先輩であるバーテン○田○治の手前を繕うため、同人に従属しかつ偶発的になされたものであること、少年は幾度も道路交通法違反による補導歴を有するが、その他には本件非行以外に非行はないこと、少年の家庭は父は大工で律義者であり母も働き者で暮しは良く、少年の兄は石工で独立しており、弟妹は習事に中学にそれぞれ通つていて、家庭は良好であること、ただ少年の両親は少年を甘やかして育て少年に対して放任的だつたが、本件非行を知るに及んで従来の態度について反省し、少年の指導監督を痛感して自己の恩師であり縁故者でもある○本○一に助力を求めるなど、少年の更生に心身を砕くに至つたこと、○本○一は現在、会社を経営し、県議会議員を勤めていて、本件事件後少年に会い、○○高校にも行つて学校時代の少年の動静を聞くなど少年の指導に熱意を示し、少年は元来機械いじりが好きで自動車修理工になることを欲しているので、少年を三重県職業訓練所に入れるよう尽力すると誓つていること、少年は本件非行にて取調を受けて我儘な生活振を反省し、去る九月一八日本件のため逮捕以来、鑑別所少年院を通じ約百日に及ぶ拘束生活にて一層更生の決意が固つてきたことなどを考慮するときは、この際少年を施設に収容するよりは、しばらく在宅保護の処分により交友関係の調整、職業選択などについて少年の指導を試みることが適切妥当と認められる。
しからば、少年を中等少年院に送致する旨の決定をした原決定の処分は当を得ないことに帰し、本件抗告は理由がある。
よつて、少年法第三三条第二項により、原決定を取り消し、本件を津家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 高橋嘉平 判事 西川力一 判事 斎藤寿)
参考二
抗告申立の趣旨および理由
申立の趣旨
原裁判所の少年院送致の審決を取消し保護観察に付する決定に改められたし
理由
一、原裁判所の審判は
(イ) 被審人の不良化に付その実態の明察を欠き徒らに之を過重視された(鑑別所等の調書に顕われて居る極めて温情に乏しい皮相な見解にとらわれ)余りに本人に今迄のことは自分の未熟の誤りとして前非の反省悔悟と正常復帰の意欲が顕現していることが一向顧慮されなかつたようであり、
(ロ) その為か同人今後の改善に付ては此際本人と共に親達保護者に厳戒を加え当人を其家庭に納めると共に当局の了解を得て元の高校生徒として勉学修業に引戻すことが最良の方策である筈なのにそこ迄念慮されなかつたことを甚だ残念に思います。
二、以上の次第に付申立趣旨に副う御庁の御裁断を御願いします。
追て前掲の本件理由に付ては、その詳細を後出の追加書面で解明させて頂くことにします。
編注 差戻後の事件は、昭四〇・九・一三保護観察決定